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下流社会 第2章 なぜ男は女に”負けたのか”  三浦展著 [BOOK]

光文社新書、2007年9月発売。

三浦展さんの本のすごいところは、ぼんやりとした問題意識を、データを上手く活用してその大胆な仮説とともにくっきりと描き出してくれるところにある。
決して学問的ではないが、その鮮やかさは天才的。
その代表作の「下流社会」(光文社新書、2005年9月発売)には、すごく感心した。
その続編ということで読んでみた。

内閣府「国民生活世論調査」をもとにした三浦さんの分析によると、1973年、1996年、2006年で、以下のような推移が見られる。(p.17より抜粋)
「上」「中の上」合計 7.1% 11.2% 12.1%
   「中の中」   61.3% 57.4% 54.1%
「中の下」「下」合計 27.6% 28.2% 32.3%
33年間の間に、「上」が5%アップ、「中」が7%ダウン、「下」が5%アップ。
さらにこの10年で「中流意識」が減っていることがわかる。
そして、「上」15%、「中」45%「下」40%に近い将来なるとしている。
中流意識が大多数と言われた時代は既に過去になりつつある。

また様々な雑誌を分析して、「この雑誌を読んでいるのはこういうタイプの人間」と断言しているが、そこまではっきり言いますかという感じで面白い。
特にこの仮説が一番印象的だった。
「経済情報よりもファッションとエロと右翼に関心がある男性は、パラサイトしやすいという仮説が成り立ちそうだ。」(p.45)

分析というと学問的な厳密さを追い求めるが、社会のざくっとした流れをつかむためには、こういうプロファイリングもありかなと思う。


下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)

下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)

  • 作者: 三浦 展
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2005/09/20
  • メディア: 新書



下流社会 第2章  なぜ男は女に“負けた

下流社会 第2章 なぜ男は女に“負けた

  • 作者: 三浦 展
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/09/14
  • メディア: 新書



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人づきあいのレッスン 和田裕美著 [BOOK]

ダイヤモンド社、2008年6月発売。

和田裕美さんが「世界No,2の営業実績」を引っさげて世に知られたのが、2003年のこと。
もうそんなに時間がたったのかという感じ。

最近読んだビジネス本の中で最も平易な文章でした。
論理的というよりきわめて感覚的な文章で、あまり男性向きでないような気はする。

とりあえず、自分なりの理解は以下のとおり。
①自分の現在置かれている状況に感謝する。
②笑うことなど前向きな態度を取ることで前向きになれる。
③他人に対して前向きに接し、前向きな言葉は積極的かつ素直に発する。
④相手が嫌いだったり苦手だったりする場合にはそれをまぎらわす方法を考え、逃げずに接する。

一番勉強になったのは以下の記述。
「普通に『おいしい!』という言葉なしに、『このお肉は○○産だから・・・・うんぬん』とはじめてしまうと、ただの事実です。感情に対して事実を投げることは、とにかくいやらしい感じを与えてしまうのです。」(p.12)


人づきあいのレッスン―自分と相手を受け入れる方法

人づきあいのレッスン―自分と相手を受け入れる方法

  • 作者: 和田 裕美
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2008/06/13
  • メディア: 単行本



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最強国家ニッポンの設計図 大前研一著 [BOOK]

小学館、2009年5月発売。

またも、大前研一さん本の紹介。

日本が世界リードできる国家になるための処方箋を示している。たとえば、
①特定の政党にも政府にも属さず、株式界社として広く国民から出資を受け、国家戦略を立案するシンクタンク「ザ・ブレイン・ジャパン」の提唱。
②「税率を下げれば税収は増える」という世界の常識にあわせた所得税12%、法人税25%、相続税ゼロ等の税制の抜本改革。
③日本も中国やロシアと同様に国家ファンドを作る、それも50兆円規模のものを。
④原子力、太陽光、地熱、そして海洋国家を生かし、実は軽油などの燃料になる藻を利用したエネルギー大国。
などなど。

大前さんが日本が復活できるという話をするとき、出てくるのが日本の圧倒的なストックの話。
個人金融資産が約1500兆円、不動産資産が約1300兆円、合計2800兆円、さらに100兆円の外貨準備、90兆円近い年金資金があり、これらのストックをどうするかというのが持論。
例えば、50兆円の国家ファンドもそう。
人口が増えない=フローが増えない以上、ストックに税をかけるべきというのもそう。
死ぬときに最も預金が多いという話もそう。
この状況に関する日本人の認識が変わることが日本の再生の第一歩と言い続けている。
非常に興味深い。

僕の理解不足かもしれないが、大前さんの持論は、強者と弱者を二段階で分けて、強者は徹底的に勝って、後者は生活保護などのセーフティネットで助ければ良いという立場。
格差全くもってOK
あと、圧倒的なエリート主義。
これらの部分は、頭では理解できるが、まだ感覚的に付いていけない。


最強国家ニッポンの設計図

最強国家ニッポンの設計図

  • 作者: 大前 研一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/05/29
  • メディア: 単行本



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情報調査力のプロフェッショナル 上野佳恵著 [BOOK]

ダイヤモンド社、2009年3月発売。

上野佳恵さんは、日本能率協会総合研究所、マッキンゼーなどで経験を積んで、現在、リサーチ関連業務の会社を率いている、情報調査のプロフェッショナル。

作者にも作品にも何の予備知識もなく、手に取ってみた。
この本は、企業に勤めるビジネスマン向け、特にリサーチ業務にフォーカスしており、そういう意味では必ずしも僕にあっているわけではないのだが、結果的に非常に有用な本だった。

情報調査というと、僕なんかの場合は情報源を思いつかなければ、とりあえずGoogle、検索結果が多ければより複数のキーワードでクロス検索し、検索しながら場当たり的にまとめ方を考えていく訳だが、それが本当に効率的かというのが、ポイントの一つ。
自分がどういう目的を持ってどういう方法で調査をすると、より効率的か。
「調べるサイクル」を徹底的に意識する。

まず調べる前に立ち止まって考えるということが大事。
どうにも性格的にスピード重視というか、せっかちなところがあって、ここは意識しなければ。

「仮説思考というのは建物全体の構造を考え、それからここの部分を設計していくやり方。
リサーチの仕事というのは、どの部分をどのような目的で使いたいかというような詳細まで決めてから全体の設計案を考えるやり方。」(p.202)
前者がコンサルタント、後者がリサーチャーの仕事ということ。
いずれにせよ、調べる前にとことん詰めないとプロフェッショナルにはなれない。
コンサルタントにしろ、リサーチャーにしろ、立ち止まって詰められないと話にならないのだろう。

後は、リサーチャーという仕事とインターネットの話も印象に残った。
インターネットが普及する前は、情報の収集でお金をとることができたし、会社にも調査部門は独立して存在していた。
上野さんも、リサーチで食べていこうと決めたとき、インターネットに脅威を感じてそうだ。
しかし、結局、必要な情報を集め、使いこなすというのは、高度な専門性が必要。
インターネットは非常に有効なツールではあるが、情報源そのものではない。
商社だって、情報収集力こそが収益の源のため、インターネットがあれば不要ではないかと言われていたが、結局そうはならなかった。
形式知すらネットに溢れていない発展途上国だったら、現地に行かないとわからない情報はたくさんあるし、インターネットが普及している先進国だっていくらでも暗黙知がある。
インターネットは、社会のあり方を大きく変えてきているが、それでもすべてが変わる訳ではない。


情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」

情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」

  • 作者: 上野 佳恵
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009/03/13
  • メディア: 単行本



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「知の衰退」からいかに脱出するか? 大前研一著 [BOOK]

光文社、2009年1月発売。

この本は優れた本だと思う。

大前さんは、思考停止(国家の品格は思考停止のすすめか?)や二者択一(郵政民営化の善悪二元論)などを例に出しつつ、日本人の集団知が低下していることを指摘している。
そして、「バカっぽく見えるのは、考えていないからだ」(p.76)と断じる。
大前さん本の愛読者や大前さんがかかわっているビジネス・ブレークスルー大学院の学生に対しても、自分の頭で考えてすぐ行動にうつすようにと、繰り返し主張している。
自分の考えをわかっている人の大多数が傍観者にしかなっていないことへの悲痛な叫びでさえある。

僕も現代日本社会が思考を避けたがる傾向にあると見ている。
ただ、大前さんの問題意識は、特に日本が知の衰退に入っているとの認識のようであるが、果たしてそうなのだろうか。
私見では、社会が思考を避けたがる傾向にあるのは、情報社会における情報の氾濫が主因と考えており、他の経済先進国でも同様の状態に陥っているのではないか。

経済先進国の住民は、テレビ、インターネット、ケータイだけで非常に多量な情報の洪水を浴びているし、特に都市圏の住民は、公共交通機関や街に溢れる広告をはじめ、溢れる情報に対する「満腹」を感じていて、個人的な関心部分をのぞいては、できるだけ情報を入れたくない、考えたくないとなっているとなっているのではないか。
情報量が多いとそれだけ判断するのに、疲れも迷いも生じ、考えたくない、誰か信頼できる人に任せたい、簡単な二者択一にまとめてほしいといった情報の単純化・図式化を求めるのではないか。
(話はそれるが、都市圏であるほど一般的な「マンション」という住居形態も地域からの情報の遮断を行ない、住人を自由にするという意味があると見ている。)
これは、一種生理的な現象なのではないか。

また、大前さんの議論は、東京や各先進国の大都市を中心に物事を考え、日本土着の文化、感情、価値といったことを基本的に排すことによって議論を成立させるので、論理的な整合性は取れていて読んでいてスカッとするが、違和感を感じる点もある。

その他に印象に残った部分は以下のとおり。
①「私は『このスモールハッピネスでいい』という考えを、『ポルトガル現象』と言っている。」(p.19)←16世紀に覇を唱えたポルトガルと今の日本を重ね合わせている鋭いワーディング。
②「現代の大学生には丸山眞男を読み解く力がないかもしれないが、コンピュータ言語、インターネット言語という、昔の大学生にはなかった概念を用いての読解ができる。したがって、『昔に比べて読解力が下がった』とは言い切れないのである。」(p.37)←全く同感。こういう捉え方ができるところが大前さんのすごいと思うところだ。
③「まずは現状をきちんと認識し、そこから目をそむけないこと。とくに日本社会のトップにいる政治家や官僚は責務としてこれをやり、その『知』を一般国民にトリクルダウンしていくことで、日本人の『集団知』は上がるはずである。これは、世論を形成していくという点で、メディアにも言えることであろう。」(p.86)←エリート主義!とはいえ一面では否定できない。
④「いまの世代のコア層は『偏差値世代』であり、『少年ジャンプ世代』である。さらに言えば『○×式教育』で育った世代だから、柔軟性がない。この世代はリスクをとることを極端に嫌うのである。・・・上の世代から『リスクを回避せよ』ということだけ学んだのである。」(p.130)←おそらく僕の世代はここにあてはまると思うが、残念ながら反論できない。
⑤「私は今後、会社の経営すらも、だんだんウィキペディア的になっていくと思っている。」(p.216)←雰囲気は同感だが、具体的なイメージはさすがの大前さんでもないようだ。
⑥「私は『ゆとり教育』よりも『偏差値教育』が、日本人をダメにしたと思っている。」(p.253)「日本の子供たちは、自分の能力の判断をする大切な時期を偏差値に支配された世界で過ごすことになる。つまり、自分で自分を判断する力をなくし、やりたいことも自分ではなく偏差値で決めることにになってしまったのである。」(p.255)←全く同感。
⑦「『ゲーム・キッズ世代』は私が見たところ、『少年ジャンプ世代』よりはマシである。・・・ともかく、何かをしてやろうという挑戦するメンタリティは持っている。」(p.262)←ゲームのマイナス点も多いと思う。また、ゲームとジャンプはかなり重なり合っている。
⑧「『ケータイ世代』は、これまでの日本人とは、また全然人種が違う。この世代の特徴をひとことで言えば、彼らは私たちの見えないもの、私たちの見ていないようなものを空想できる力は持っているが、まったく無欲だということである。・・・サイバー空間を無条件に受け入れることは、おそらく、私たちにはできない。」(p.264)←確かに、この世代以降の世代がこれからの社会を語っていくポイントだと思うが、僕の頭の中で全く整理できていない。ここは勉強しなければ。
⑨「21世紀を牽引する産業は『サービス産業』と『付加価値産業』と『情報産業』だ。そして、情報産業の中身というのは金融業と通信業と運輸業である。この3つだけはアメリカは圧倒的に強い。この3は、すべて国境がないボーダーレスエコノミーである。ということは、世界から優秀な人間を集めなければ、これらの産業は成り立たないのである。・・・最大の理由は、この国には世界最高レベルの高等教育機関があるからである。」(p.368)←これだけ端的にアメリカ経済の優位な点をズバっと言ってくれた文章は初めて見た。
⑩「最近では、世界のエグゼプティブと言われる人間でも、伝統的な教養をあまり知らない。」(p.404)「私の立場は、『時代が変わったのだから教養も再定義が必要である』ということである。」(p.417)←大変興味深い。ここも要検討。


「知の衰退」からいかに脱出するか?

「知の衰退」からいかに脱出するか?

  • 作者: 大前研一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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国家を斬る 佐藤優著 [BOOK]

同時代社、2007年10月発売。
またもや図書館で借りました。

佐藤優さんの講演や対談をまとめた本。
外務省や検察に対する痛烈な批判を繰り広げている。

佐藤さんは、イデオロギーや宗教等について圧倒的な知識量がある。
この手の本はたいてい読むのに非常に疲れるのだが、佐藤さんは距離を置いた立場でかつわかりやすい言葉でそれぞれの理論を説明するので読者を疲れさせない。
これは佐藤さんの天賦の才だと思う。

印象に残った記述の引用。
①「官僚の力を弱くする方法は一つ。自分の利権を漁って官僚に文句をつけて自分の個別利益をはかっている、こういう腐敗政治家の力を強くすれば、これによって官僚の力はおそらく弱くなるでしょう。」(p.150)←「腐敗政治家」という言葉に佐藤さん独特のユーモアセンスが光る。
②「面白おかしくやるっていうことはすごく重要だと思います。要するに面白おかしくやって、笑いとばすということ。ファシズムというのは笑いのない世界だからです。官僚たちというのは、特に検察官僚や警察官僚の連中は猥談が好きですね。笑うときはだいたい猥談の話ですよ。そうじゃなければ人事の話。・・・笑いの力というものは官僚がやっていることを叩き潰す面で非常に大きな力になります。」(p.154)←「笑いの力」をこういう場面で使うのが非常に面白い。
③「私はマスコミ無罪論なんです。全く責任がない、こういうふうに考えております。なぜならマスコミは媒体だからです。しかも商業媒体なんです。ということは、常に増殖する資本として動くとうことで、儲かりゃいいというのが資本主義社会の論理であり倫理なんですね。ですからそれに忠実に従っているだけなんですね。ですから値段があってそれが売れれば何でも出すことだと思うんです。ただ、日本のメディアというのはモラルは高いです。どういうことかと言うと、自分からは捏造しない。」(p.182)←マスコミの世界で生きている佐藤さんの、生き抜いていくための冷徹な計算に基づいた発言だと思う。


佐藤優 国家を斬る

佐藤優 国家を斬る

  • 作者: 佐藤 優
  • 出版社/メーカー: 同時代社
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 単行本



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”ようこそ”と言える日本へ 土井香苗著 [BOOK]

岩波書店、2005年8月発売。

著者の土井香苗さんは、僕と同世代であり、同世代の中で最も活躍されている人の一人だと思う。
土井さんが司法試験を最若年齢合格で受かって、大学を卒業する前なのに、アフリカのエリトリアに単身乗り込み法律制定の仕事に打ち込んでいたとき、
僕も同じ大学生ではあったが、将来に対する展望がまるで開けておらず、勉強にも身が入りきれず、授業に漫然と出ていたり、バイトをしたりして、休みのときには海外貧乏旅行をしていた。
そんなときに、ほぼ同年代の人にこんなにがんばっている人がいるということをマスコミを通して聞いていたが、遠い世界のように感じていた。

この本が書かれたのは、今から4年前で、難民支援の弁護士をされていた。
そのとき、僕は東京のビルの森の真ん中で必死になって働いていた。

今、土井さんは、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィス代表をされている。
僕は島根のワークライフバランスの実現した生活の中で、本を乱読して見つめ直している。

さて、本題。
この本は、土井さんのエリトリアや難民支援の経験を平易な文章で、信念である一人一人の「人権」が尊重される社会の実現に向けて邁進している様子を描いている。
こういう複雑な問題の本質は、こういうときこそ、言わないといけないはずのマスコミも扱いたがらない。
土井さんが伝えてほしいことは、華やかな経歴ではなく、こうした問題の数々だろう。
華やかな経歴を伝えることは誰でもできるのだから。
いつまでたっても、問題が問題としてほとんどの人に認識されない、日本の抱える構造上の欠陥の深刻さをより感じた。

また、恥ずかしながら全く知らないことが数多くあった。
学問については知らなくても恥ずかしいとあまり思わないが、社会問題を知らないのは恥ずべきことだ。


ようこそ

ようこそ

  • 作者: 土井 香苗
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/08/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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国家と人生 寛容と多元主義が世界を変える 竹村健一×佐藤優 [BOOK]

太陽企画出版、2007年12月発売。

竹村健一さん、著名な政治評論家ということで、名前だけ聞いたことはあった。
それ以上はほとんど何も知らなかった。

僕は、あの2001年9月11日の一週間前、貴重な夏休みを使って、ニューヨーク・マンハッタンにいた。
街の散策中に、Mott St.とPrince St.の交差点付近にあるビルの壁面に竹村さんの肖像壁画が描かれていることを発見。
理由はわからないが、ニューヨークの真ん中に日本人の肖像壁画があることに、うれしくなって写真を撮った。(それがこの写真)
(wikipediaによると、アデランスのCMのためにもともと書かれたものらしい。)
深夜ニュースをあまり見ないせいか、未だに動く竹村さんを見たことがない。

takemurainNY.jpg

さて、本題。
そんな竹村さんと佐藤優さんの知的な対談。
世代的には父と子ほど違うはずだが、全体として、若い佐藤さんの発言の方が重厚で面白かった。

佐藤さんの考え方で面白かった点。
①逆転の発想。現役外交官時代から、あえて思想の違う「世界」で論文を発表していたこと。そして、出世作「国家の罠」をあえて新潮社から出したこと。(そういえば、現在も「週刊金曜日」で連載している。)
②北海道と沖縄といった国境地帯から見ることで日本全体の構造が見えてくること。
③「沖縄」と言っても、久米島や与那国島等は独立していた時期もあり、沖縄本島とは別の価値観で動いていること。
④沖縄のマスコミは、沖縄にとって悪い情報は流さず、「みんなで沖縄を守ろう」という姿勢がありありであること。(これは現在住んでいる島根県にも言える。ふるさと愛かも。)
⑤佐藤さんは、憲法第1〜8条を守ることが一番重要だと考えていて、そのために第9条も含めた護憲派であること。

その他の佐藤さんの発言も興味深い。
①「ロシア人は霊魂の存在を信じているし、悪いことをするとあとで祟りがあると信じています。」(p.124)
②「最近、私が関心を持っているのは出雲大社です。・・・冥界、人間の見えない世界で邪悪を成敗し、善を助ける、その冥界を仕切っているのが大国主命です。」(p.128)
③なぜキリスト教が日本で広まらなかったのかという竹村さんの問いに対して、「ヨーロッパ諸国が日本をバカにして、あまり優秀な宣教師を送ってこなかったからだと私は考えています。日本の知的水準を軽く見ていたのです。」(p.134)

ただ、竹村さんにしろ、佐藤さんにしろ、昔の政治家や官僚は偉かったが、今はだめだという、論調が垣間見えるのは寂しい。
そうやって年齢層が高い人にとって心地よい方向でまとめることで、「思考停止」に陥ってはいないだろうか。


国家と人生―寛容と多元主義が世界を変える

国家と人生―寛容と多元主義が世界を変える

  • 作者: 竹村 健一
  • 出版社/メーカー: 太陽企画出版
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 単行本



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勝間和代 脳力UP↑ 勝間和代著 [BOOK]

講談社、2009年6月発売。
勝間和代さん本の感想第6弾。
図書館で借りちゃいました。

この本は、「邪道」な感じがします。
まず、基本的にパズル本です。
かなりの部分、多胡輝さんの「頭の体操」から借用しています。
正直、手抜きな印象を受けました。
他の本に比べて説明が平易な分、物足りなさも感じます。

相変わらず、勝間語が並びますが、特に今回は「〜力」が多いです。
この本のエッセンスは、以下の式で表されます。

立体思考力=論理思考力(①法則力、②当てはめ力、③数字力)×水平思考力(④否定力、⑤展開力、⑥試行力)

パズルを使って、この6つ(それぞれについて詳しく知りたい方は本を読んでみてください。)のどれが鍛えられるか明らかにした上で、パズルを解かせるところに、この本がただのパズル本とは違う最大の特徴があると思われます。
しかし、勝間さんが設定した定義に従って、「これは勝間さん言うところの『〜力』が鍛えられるのだな」と思いながら、パズルを解くのは、個人的にあまり楽しくありません。

僕が思うには、勝間さんはこの本で様々な「実験」をしたかったのだろうと思います。
①本と同時期に開設した携帯サイトの「みるみる頭がよくなるサイト 勝間和代 脳力UP↑」とのクロスメディア戦略の試行。
②自分の写真を多用することで読者がどのような反応を示すか。
③パズル本のような本で、どのくらい「カツマー」がついてくるか。
④性格が違う本を出すことで、どのくらい新規顧客が獲得できるか。

ギラギラして押し付けがましい印象が強く、残念ながら今まで読んだ勝間本の中で、ワースト1、2位を争う本だと思います。
個人的には、MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive 相互に排他的で全体として漏れがない)の思考法を復習できたことが唯一良かった点でした。


勝間和代・脳力UP

勝間和代・脳力UP

  • 作者: 勝間 和代
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/06/16
  • メディア: 単行本



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資本主義はなぜ自壊したのか 中谷巌著 [BOOK]

集英社、2008年12月発売。

中谷巌さんといえば、泣く子も黙る、グローバル資本主義の支持者だと思っていた。
その人が「転向」したというから、非常に関心があった。
学者にとって、自分の掲げてきた主義主張を取り下げるというのは、取り返しのつかない傷になる恐れがあり、あまりにも勇気がいることだからだ。

十数年前、中谷さんが国の審議会などで自由競争を声高に主張し、金融ビッグバンを迎えたとき、学生であった僕はその中身を理解している訳ではなかったが、経済社会の将来に漠然とした不安を感じていた。

これまでは、政府は事前規制・供給者保護を行なっていた。企業に過当競争をさせないことでつぶれないようにして、それで出た利益を皆で分け合うような仕組み。
これからは、政府は事後規制・消費者保護を行なう。企業は自由競争(時として過当競争にもなる)し、勝つ企業はどんどん進み、負けた企業はどんどん淘汰されて行く。政府は企業に対し最低限のセーフティネットを用意すればよい・・・

グローバル化の流れがあるとはいえ、それで日本社会は本当に良くなるのだろうかと。
確かに、利権にあぐらをかいている人が生き残り、出る杭が打たれるような社会は変わっていく必要があると思うけれども・・・

その中谷さんが、現在の経済状態は、経済学で言うところの条件が適切でないことによる「市場の失敗」ではなく、グローバル資本主義が本来的に内包している欠点が作り出したものと言い切った。
中谷さんが若いとき、過去のアメリカの豊かさを体感することにより、現在に続くアメリカの規制緩和をそのままマネすることに捕われていたことも認めた。
これは、ものすごい衝撃だ。

以下の記述が特に印象に残った部分。
①「『より多く儲けた者が勝ち』という新自由主義的な価値観は、裏を返せば『手段のためには目的を選ばない』『稼げない人間は負け組であり、それで飢えたとしても自業自得である』という考えにそのままつながる。」(p.25)
②「必要な改革はまだまだ残っているけれども、アメリカ後追い型・弱者切り捨て型の構造改革には声を大きくして反対する必要があると考えるようになった。」(p.32)
③「マーケット・メカニズムや自由競争、あるいは、グローバル資本主義の仕組みとはエリートが大衆を搾取するための『ツール』あるいは『隠れ蓑』として使われているだけではないか。・・・『改革さえすれば世の中は良くなる』というナイーブな考え方を改め、国家が自由主義経済にどのような制限を加えるのか、どのような社会的価値を重視し、それを実現するためにどのような政策を打ち立て、実行して行くのか模索するしかない。」(p.66)
④「現実の市場においては『情報の完全性』など、最初から存在しえない。」(p.104)
⑤「医療、そして教育などの公的サービス分野で改革を行なうときには、それがどういう社会的結果をもたらすかについて十分な検討が必要であり、たんに民営化・株式会社化すれば効率が上がるといった議論だけで間違った構造改革を推進してしまうことは厳に慎まなければならない。」(p.170)
⑥「特殊性を排除する。議論はあくまでも論理的でなければならない。そして『論理で勝つ人』がアメリカでは、即、勝者なのである。情緒や信条、民族的感情などなど、、アメリカ人から見て論理的でない要素、合理的でない要素は切り捨て、無視する。これがアメリカの流儀なのである。」(p.178)
⑦「日本人が積極的、攻撃的に行動しないのは、日本人に戦略性が欠けているからではない。日本人は、まず相手に対して正直に誠実に行動することが、最終的に自分の利益を最大化するような、そうした特徴を持つ社会に長く暮らしてきたからこそ、そのような行動をとっているにすぎない。」(p.276)

それが処方箋になるかは別として、中谷さんのいうように、「まず我々は『欲望の抑制』を学ばなければならない」(p.368)ということは間違いないだろう。


資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

  • 作者: 中谷 巌
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/12/15
  • メディア: 単行本



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