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資本主義はなぜ自壊したのか 中谷巌著 [BOOK]

集英社、2008年12月発売。

中谷巌さんといえば、泣く子も黙る、グローバル資本主義の支持者だと思っていた。
その人が「転向」したというから、非常に関心があった。
学者にとって、自分の掲げてきた主義主張を取り下げるというのは、取り返しのつかない傷になる恐れがあり、あまりにも勇気がいることだからだ。

十数年前、中谷さんが国の審議会などで自由競争を声高に主張し、金融ビッグバンを迎えたとき、学生であった僕はその中身を理解している訳ではなかったが、経済社会の将来に漠然とした不安を感じていた。

これまでは、政府は事前規制・供給者保護を行なっていた。企業に過当競争をさせないことでつぶれないようにして、それで出た利益を皆で分け合うような仕組み。
これからは、政府は事後規制・消費者保護を行なう。企業は自由競争(時として過当競争にもなる)し、勝つ企業はどんどん進み、負けた企業はどんどん淘汰されて行く。政府は企業に対し最低限のセーフティネットを用意すればよい・・・

グローバル化の流れがあるとはいえ、それで日本社会は本当に良くなるのだろうかと。
確かに、利権にあぐらをかいている人が生き残り、出る杭が打たれるような社会は変わっていく必要があると思うけれども・・・

その中谷さんが、現在の経済状態は、経済学で言うところの条件が適切でないことによる「市場の失敗」ではなく、グローバル資本主義が本来的に内包している欠点が作り出したものと言い切った。
中谷さんが若いとき、過去のアメリカの豊かさを体感することにより、現在に続くアメリカの規制緩和をそのままマネすることに捕われていたことも認めた。
これは、ものすごい衝撃だ。

以下の記述が特に印象に残った部分。
①「『より多く儲けた者が勝ち』という新自由主義的な価値観は、裏を返せば『手段のためには目的を選ばない』『稼げない人間は負け組であり、それで飢えたとしても自業自得である』という考えにそのままつながる。」(p.25)
②「必要な改革はまだまだ残っているけれども、アメリカ後追い型・弱者切り捨て型の構造改革には声を大きくして反対する必要があると考えるようになった。」(p.32)
③「マーケット・メカニズムや自由競争、あるいは、グローバル資本主義の仕組みとはエリートが大衆を搾取するための『ツール』あるいは『隠れ蓑』として使われているだけではないか。・・・『改革さえすれば世の中は良くなる』というナイーブな考え方を改め、国家が自由主義経済にどのような制限を加えるのか、どのような社会的価値を重視し、それを実現するためにどのような政策を打ち立て、実行して行くのか模索するしかない。」(p.66)
④「現実の市場においては『情報の完全性』など、最初から存在しえない。」(p.104)
⑤「医療、そして教育などの公的サービス分野で改革を行なうときには、それがどういう社会的結果をもたらすかについて十分な検討が必要であり、たんに民営化・株式会社化すれば効率が上がるといった議論だけで間違った構造改革を推進してしまうことは厳に慎まなければならない。」(p.170)
⑥「特殊性を排除する。議論はあくまでも論理的でなければならない。そして『論理で勝つ人』がアメリカでは、即、勝者なのである。情緒や信条、民族的感情などなど、、アメリカ人から見て論理的でない要素、合理的でない要素は切り捨て、無視する。これがアメリカの流儀なのである。」(p.178)
⑦「日本人が積極的、攻撃的に行動しないのは、日本人に戦略性が欠けているからではない。日本人は、まず相手に対して正直に誠実に行動することが、最終的に自分の利益を最大化するような、そうした特徴を持つ社会に長く暮らしてきたからこそ、そのような行動をとっているにすぎない。」(p.276)

それが処方箋になるかは別として、中谷さんのいうように、「まず我々は『欲望の抑制』を学ばなければならない」(p.368)ということは間違いないだろう。


資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

  • 作者: 中谷 巌
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/12/15
  • メディア: 単行本



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日本の難点 宮台真司著 [BOOK]

幻冬社、2009年4月発売。

今から10年以上前、僕が大学生のとき、宮台真司さんは、まさに時代の寵児、メディアが喜ぶ「新進気鋭の社会学者」だった。
「朝まで生テレビ」の論客だったし、女子高生の援助交際が社会問題になっていてワイドショーにもよく出ていた。
僕も「終わりなき日常を生きろ」、「世紀末の作法」あたりを一生懸命読んだ。
「これだけ批判を浴びながら、我が道を行く、すごい人だなあ」と思っていた。

そんな宮台さんも59年生まれ。今年50歳。
時の流れはあまりにも早い。
「日本の難点」を紹介する、新聞の大きな広告を見て、「相変わらず、自信満々な紹介の仕方をしているな」と思った。

ページ数が少ない割に、論点が非常に広範囲。
コミュニケーション論・メディア論、若者論・教育論、幸福論、米国論、日本論・・・
どう考えても、新書で書く論点数じゃないよなあ。
その上、学者等の名前や日常生活で普通使用されない用語の連発で、理解しやすいとは思えない。
「本書はこれ以上ありえないというほど、かみくだれて書かれています。」(p.285)
・・・う〜ん、そうかな。

宮台さんは、あくまで学者である。
評論家なら「自分はこう思う」ということをそのままストレートに書けるが、学者は、自分のよってたつ理論を、他の学者の引用をし、それに批判などを加えた上で、書くのが作法である。
そこは可能な限り最小限にし、簡単にまとめたつもりだろうし、致し方ないか。

さて、印象に残ったのは、以下の部分。
①「状況は男の子の方が、圧倒的に深刻です。女性と違って男性には同性同士の相互扶助ができません。老人ホームに行くとわかります。」(p.41)
←これ、そうなんですよ。子育てサロンに行っても、女性同士は一瞬で仲良くなるのです。ちょっとずれますが、せっかく男性は育児休暇をとっても、お母さん方の輪の中に入れなくて、あまりにも孤独という話です。
②「子どもをネットにアクセスさせないとかケータイに触れさせないなども緊急避難的には『あり』ですが、こうした対症療法では問題の本質にむしろ手付かずのままになります。問題の本質とは、対面コミュニケーションがネットコミュニケーションよりも脆弱なままでいいのかということです。」(p.61)
←これもおっしゃるとおり。ノーメディア運動を進めるのなら、その代替となる対面コミュニケーションを用意しないといけない。
③「ガリベン君が非ガリベン君にあっさり抜かれる残酷な光景・・・早期教育をやろうがやるまいが、『地アタマ』はさして変わりありません。」(p.89)
④「叩き上げで獲得した専門性こそが人材価値をもたらす時代だ。なのに教育界や親がいまだに『いい学校・いい会社・いい人生』である。・・・僕はこの事件(秋葉原殺傷事件)の背景は『格差社会が悪い問題』ではなく『誰かなんとか言ってやれよ問題』なのだと言い続けてきました。」(p.239)


日本の難点 (幻冬舎新書)

日本の難点 (幻冬舎新書)

  • 作者: 宮台 真司
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 新書



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考える技術 大前研一著 [BOOK]

講談社、2004年11月発売。

ビジネスマンの持つべき論理的思考方法について論じた本。
ゴーンの日産改革、小泉郵政民営化・高速道路民営化、不動産価格の下落、急激な円高といった当時の社会問題に当てはめて論理的に説明。
ただし、科学技術の状況が大きくこの5年の間で進化しているため、今、読むと古く感じる点があるのは仕方がないか。

そのエッセンスに対する、僕なりの理解は以下のとおり。
①徹底した原因分析。これでもこれでもかと要因を分解していく。
②原因分析を行う際に、現場の情報を徹底して集める。それではじめて説得的になる。
③たった一つの正解を出すのにやっきになることはむしろ思考の妨げ。
④分析に基づいた対応策の確実な実行。そのための絶対的な権限をしっかり持つ。
⑤旺盛な好奇心をもつ。
⑥力を入れるところと抜くところをしっかりメリハリつける。

④が実は一番難しい。
経営コンサルタントも④が持てない。
ゴーン改革が成功したのは、④が大きいと大前さんも論じている。

勝間さん本との比較で言うと、
もちろん、マッキンゼーの大先輩である大前さんが先行しているわけだが、勝間さんと思考方法が類似している。
(自慢話が多い点も(苦笑))
ただ、本の内容として比較すれば、勝間さん本は章ごとに要約が載っており、言いたい主張が印象に残るように繰り返されているし、章立ても工夫しており読みやすい。
一方、大前さんは、国際的にも経営コンサルタントとして活躍しており、勝間さん本とは違った視点を提供してくれる。
大前さん本は、今後もblogで紹介して行きたい。


考える技術

考える技術

  • 作者: 大前 研一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/11/05
  • メディア: 単行本



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