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「知の衰退」からいかに脱出するか? 大前研一著 [BOOK]

光文社、2009年1月発売。

この本は優れた本だと思う。

大前さんは、思考停止(国家の品格は思考停止のすすめか?)や二者択一(郵政民営化の善悪二元論)などを例に出しつつ、日本人の集団知が低下していることを指摘している。
そして、「バカっぽく見えるのは、考えていないからだ」(p.76)と断じる。
大前さん本の愛読者や大前さんがかかわっているビジネス・ブレークスルー大学院の学生に対しても、自分の頭で考えてすぐ行動にうつすようにと、繰り返し主張している。
自分の考えをわかっている人の大多数が傍観者にしかなっていないことへの悲痛な叫びでさえある。

僕も現代日本社会が思考を避けたがる傾向にあると見ている。
ただ、大前さんの問題意識は、特に日本が知の衰退に入っているとの認識のようであるが、果たしてそうなのだろうか。
私見では、社会が思考を避けたがる傾向にあるのは、情報社会における情報の氾濫が主因と考えており、他の経済先進国でも同様の状態に陥っているのではないか。

経済先進国の住民は、テレビ、インターネット、ケータイだけで非常に多量な情報の洪水を浴びているし、特に都市圏の住民は、公共交通機関や街に溢れる広告をはじめ、溢れる情報に対する「満腹」を感じていて、個人的な関心部分をのぞいては、できるだけ情報を入れたくない、考えたくないとなっているとなっているのではないか。
情報量が多いとそれだけ判断するのに、疲れも迷いも生じ、考えたくない、誰か信頼できる人に任せたい、簡単な二者択一にまとめてほしいといった情報の単純化・図式化を求めるのではないか。
(話はそれるが、都市圏であるほど一般的な「マンション」という住居形態も地域からの情報の遮断を行ない、住人を自由にするという意味があると見ている。)
これは、一種生理的な現象なのではないか。

また、大前さんの議論は、東京や各先進国の大都市を中心に物事を考え、日本土着の文化、感情、価値といったことを基本的に排すことによって議論を成立させるので、論理的な整合性は取れていて読んでいてスカッとするが、違和感を感じる点もある。

その他に印象に残った部分は以下のとおり。
①「私は『このスモールハッピネスでいい』という考えを、『ポルトガル現象』と言っている。」(p.19)←16世紀に覇を唱えたポルトガルと今の日本を重ね合わせている鋭いワーディング。
②「現代の大学生には丸山眞男を読み解く力がないかもしれないが、コンピュータ言語、インターネット言語という、昔の大学生にはなかった概念を用いての読解ができる。したがって、『昔に比べて読解力が下がった』とは言い切れないのである。」(p.37)←全く同感。こういう捉え方ができるところが大前さんのすごいと思うところだ。
③「まずは現状をきちんと認識し、そこから目をそむけないこと。とくに日本社会のトップにいる政治家や官僚は責務としてこれをやり、その『知』を一般国民にトリクルダウンしていくことで、日本人の『集団知』は上がるはずである。これは、世論を形成していくという点で、メディアにも言えることであろう。」(p.86)←エリート主義!とはいえ一面では否定できない。
④「いまの世代のコア層は『偏差値世代』であり、『少年ジャンプ世代』である。さらに言えば『○×式教育』で育った世代だから、柔軟性がない。この世代はリスクをとることを極端に嫌うのである。・・・上の世代から『リスクを回避せよ』ということだけ学んだのである。」(p.130)←おそらく僕の世代はここにあてはまると思うが、残念ながら反論できない。
⑤「私は今後、会社の経営すらも、だんだんウィキペディア的になっていくと思っている。」(p.216)←雰囲気は同感だが、具体的なイメージはさすがの大前さんでもないようだ。
⑥「私は『ゆとり教育』よりも『偏差値教育』が、日本人をダメにしたと思っている。」(p.253)「日本の子供たちは、自分の能力の判断をする大切な時期を偏差値に支配された世界で過ごすことになる。つまり、自分で自分を判断する力をなくし、やりたいことも自分ではなく偏差値で決めることにになってしまったのである。」(p.255)←全く同感。
⑦「『ゲーム・キッズ世代』は私が見たところ、『少年ジャンプ世代』よりはマシである。・・・ともかく、何かをしてやろうという挑戦するメンタリティは持っている。」(p.262)←ゲームのマイナス点も多いと思う。また、ゲームとジャンプはかなり重なり合っている。
⑧「『ケータイ世代』は、これまでの日本人とは、また全然人種が違う。この世代の特徴をひとことで言えば、彼らは私たちの見えないもの、私たちの見ていないようなものを空想できる力は持っているが、まったく無欲だということである。・・・サイバー空間を無条件に受け入れることは、おそらく、私たちにはできない。」(p.264)←確かに、この世代以降の世代がこれからの社会を語っていくポイントだと思うが、僕の頭の中で全く整理できていない。ここは勉強しなければ。
⑨「21世紀を牽引する産業は『サービス産業』と『付加価値産業』と『情報産業』だ。そして、情報産業の中身というのは金融業と通信業と運輸業である。この3つだけはアメリカは圧倒的に強い。この3は、すべて国境がないボーダーレスエコノミーである。ということは、世界から優秀な人間を集めなければ、これらの産業は成り立たないのである。・・・最大の理由は、この国には世界最高レベルの高等教育機関があるからである。」(p.368)←これだけ端的にアメリカ経済の優位な点をズバっと言ってくれた文章は初めて見た。
⑩「最近では、世界のエグゼプティブと言われる人間でも、伝統的な教養をあまり知らない。」(p.404)「私の立場は、『時代が変わったのだから教養も再定義が必要である』ということである。」(p.417)←大変興味深い。ここも要検討。


「知の衰退」からいかに脱出するか?

「知の衰退」からいかに脱出するか?

  • 作者: 大前研一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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