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1997年8月中国・チベット感動一人旅② [TRIP]

僕がチベットで見たものは、果てしない草原と澄み切った空だった。
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チベットのラサの空港に着いたとき、その広々とした空間に心がウキウキした。
空気が軽く空が近い感じだ。
しかし、夕方には頭が痛い。
他の人も頭が痛いと言っている。

どうやら高山病だ。
何しろ、ラサが3650メートル。
富士山とほぼ同じ高さに飛行機でいきなり来たのだから。
聞いたところだと5000メートルで酸素は低地の半分だそうだ。
これでは無理ができない。
あまりの異国情緒に興奮が抑えられなかったが、
「落ち着け。そうじゃないと高山病になってしまう。」

事実、症状がひどい人はその日の夜には酸素を買っていた。
その時、チベットで一緒だった人は、みんな多かれ少なかれ高山病に悩まされていた。
チベットにいる4日間、ずっとホテルで横になっていた人もいたくらいだ。
僕は酸素を買わなかったが、
スプレー缶に酸素が入っている高級なものと普通のビニールに酸素を入れてもらう安いのがあった。

泊まるのは当然、ぼろ宿のドミトリーだ。
上を見ると布で出来た天井で、ネズミ君が走るとその部分がヘッコンで動いている。
「ネズミ君、ダッシュ!」

夜は8月だというのに一桁度だ。
長袖の服はレインコート一つだった僕は、両手にポリエステルのタオルを巻いて寝た。
それでも、寒い。
しかも、この気温で水シャワーのみは厳しい。
空気も薄くて寝付けない。
結構、これは大変かも。

数日はボタラ城に行ったり町を散策してちょっとずつ体を慣らした。
ボタラ城は荘厳で階段も恐ろしくきつい。
まさに10歩ごとに一休みじゃないとだめ。
こんなに酸素が薄いのはきついのか。

ラサの町はお経を唱えている人やマニ車という仏教具をぐるぐる回している人がたくさんおり神秘的だ。
(マニ車とは一回回すごとにお経を唱えているのと同じという便利な道具。)
お線香の煙とにおいが街中に立ち込めている。
物的に豊かだとは決して言えないが宗教の力が町を支えている。

一方でお寺の中にまで兵隊さんがいて国旗が建てられている。
ボタラ城のすぐ前の中央公園には毛沢東像が立っている。
ここはそういう意味でも微妙な問題を抱えている。
また、観光化も進んでおり「お金、お金」などと口走る人もいる。
幻想を抱えてはいけない。

僕にとって非常に幸運だったのはジープを共同で借りてナム湖に行く旅に
日本人バックパッカーグループから誘われたことだ。
ナム湖はラサから北にジープで10時間弱ほどで着く。
ジープが反転しそうになるような道なき道を進む。

途中の大草原で、チベット人たちがジープから500メートルくらいからじっとこちらを見ていた。
こちらから観ると、点にしか見えないが、彼らは視力が非常に良い(3.0~4.0)から、見えるのだろう。
しばらくすると、50メートルずつじりじり近づいてくる。
用心をしているが、非常に関心があるようだ。
結局、30メートル付近で泊まった。10歳前後の子供だ。
包装紙に入った飴玉をあげるジェスチャーをしたら、珍しそうにじっと飴玉を見る。
・・・食べ方がわからないらしい。
一つ食べて見せて、食べ方を教えた。
そしたら、まねをして食べた。
美味しかったらしく、本当にうれしそうな顔をした。
その顔から非常に素朴にうれしさが伝わってきて、こっちが感動してしまった。
10歳ではじめて飴玉の存在を知って食べたら、こんな顔をするんだと。
彼らは、このままこの大草原で生きていくのだろう。

とうとう、最高5000メートルまで登り、湖自体も4650メートルもの所にある。
休憩場所で、チベット文字の書いている石が落ちており、
荷物になるとはわかっていつつも思わず拾ってしまった。
なんて書いてあるのかちんぷんかんぷん。

景色がすごい。
どこまでも広がる草原。
手が届きそうなくらい果てしなく澄んだ青空。
南に雄大に広がるヒマラヤ山脈。

10時間かけてやっと目的のナム湖に着いた。
周りには本当に何もない。
さすがに相当つかれた。
湖を見つめながらずーっとぼっとしていた。

夜になった。
泊まるところは、ただのコンクリートの打ちっぱなしの窓もない建物であった。
壁にはヤク牛の肥料用の糞が打ち付けられている。
トイレもなく、するなら外で湖でも見ながらどうぞという感じである。
眠る場所は一人一畳にも遥かに届かない狭いスペースにぼろぼろの布団で寝る。

空気が薄いせいなのか、
寒いせいなのかか、
気持ちが高揚しているせいなのか、
まるで眠れない。
休まなきゃいけないと思い、とりあえず横になっていた。

窓のない部屋に20人もの人が眠っているのだが、寝息が普通じゃない。
三回くらい深呼吸して一回ちょっとはく。
人によってはずっと酸素を吸っている。
すごい音がこだまする。

「これはやばいんでない?」
外に出ようと思い、ひょっとして氷点下かもしれない寒い寒い外に出た。
サンダルでしかも長袖1枚ではあまりにきつかったけど。

そこで見た星空。

空から降ってきそうな星星。
天の川が雲状に広がっていて、本当に川のようだ。
流れ星が次々と通り過ぎる。
流れ星ってこんなに落ちているんだ。
宇宙が動いているような気がした。
ずっと眺めていたかった。

感動した。

そして、朝が来た。
結局ほとんど眠れなかった。
一人外に出ると、牧羊犬に囲まれヤク牛の群が日の出とともに朝日の出る方角へ一斉に走り出す。

一匹の犬がこちらをのぞき込む。
まるで着いてこいと言っているように。
僕もその方向につられてゆっくりと走り出した。
息を切らさないように、
犬もそれを見て同じペースで絶好のポジションである丘の中腹に連れていってくれた。

そこで見たものは、

広大な湖とその横に建てられた性器の形をした宗教的象徴のリンガ。
そしてゆっくりと顔をのぞかせる朝日。
遠吠えする犬。
光に向かって走るヤクの群。
あまりにもきれいで「写るんです!」一台しかカメラを持っていない自分を恨んだ。

感動した。



僕の旅のベストシーンです。

(1997年8月中国・チベット感動一人旅③に続く)


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